遺言書や遺産分割協議といった場合、プラスの財産を想像する方が多いと思いますが、マイナスの財産(債務)もございます。相続や遺言の場合はその債務を誰が引き継ぐことになるのでしょうか?
まず債務とは、硬く馴染みの薄い言葉かもしれませんが、多くの方は日常生活の中で様々な債務を負担しております。例えばクレジットカードの利用や、住宅ローン、車のローン、税金等の未払金、消費者金融から借りた借金などです。これらは相続債務と言います。
相続における原則的な債務の承継
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。(民法896条)
民法に規定されている通り、相続人は相続財産の全てを引き継ぎます。従って被相続人が負担していた債務は全て相続人が引き継ぐということです。一身専属的なものとは、具体的に説明すると生活保護受給権や公営住宅に住む権利など、その特定の個人のみが有するものです。一身専属的なものは承継できません。
被相続人の金銭債務や他の可分債務は、相続人が複数いる場合、その相続分に応じて分割され承継します。
遺言における債務の承継
遺言に関する債務の承継については平成21年3月24日の判決で大筋が示されました。「相続人のうち1人に対して全財産を相続させる旨の遺言」により相続分の全てが1人の相続人に指定された場合は、遺言の趣旨などから相続債務については当該相続人に全てを相続させる意思がないことが明らかな場合など特段の事情がない限り、当該相続人に相続債務も全て相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきとし、もっとも上記遺言による相続債務についての相続分の指定は相続債権者の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないと判示しました。
つまり遺言により特定の相続人に全ての債務を承継させるとした場合、相続人同士では遺言に従って処理されても対外的にはその効力が及ばないということです。
葬式費用について
被相続人が死亡した後に行われる葬式では火葬や通夜、告別式など様々な費用が発生します。しかしこちらの費用はあくまでも亡くなった後に行われるものですので相続債務とはなりません。この葬式費用は喪主が負担することになります。しかし葬式費用の負担者を遺言で定めておいた場合は、これがその負担者の相続条件と見做すことができるので、そのものによる負担を促すことで円滑な処理が可能です。
従って遺言書の作成により葬儀代の負担を明記しておくことは葬儀費用の負担をめぐる紛争解決対策となります。
遺言執行費用について
葬儀代以外にも相続後にかかってくる費用として遺言執行費用がございます。具体的には相続登記費用、遺言執行者への報酬などです。これらの費用は遺言に関する費用として、相続財産で負担することになっております。法的根拠は下記の通りです。
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。(民法1021条)
一人の人に全財産を相続させる場合は遺言で指定する必要はございませんが、そうでない限りは遺言において遺言執行費用の負担者を明確にするべきでしょう。