被相続人が海外に財産(遺産)を所有している場合、どのようになるのでしょうか?
海外に資産がありますと当然リスクも増しますし、必要な手続きも増えてきます。今回は被相続人が海外に資産を持っている場合について解説いたします。
海外資産を保有するリスク
現在では価値観の多様性により海外の方が物価が安いため海外で老後を過ごそう、という人も増えています。またインターネットの普及や日本の預貯金の低金利化、租税体系の複雑化や増税などにより海外の投資も活発的に行われています。しかしながら、海外に資産がある場合、英語等の外国語が必須になるほか海外の税制や法律を理解しておかなくてはなりません。
さらに日本と外国の為替変動によるリスクやカントリーリスク(例えば中国では仮想通貨が法律で禁止になるなど、その国特有のリスクがあります。)も生じることになります。そして相続が発生した場合、相続人にその負担とリスクが行くことになります。従って被相続人が相続人に迷惑かけないよう生前にリスクを減らしていく必要があるでしょう。
海外相続の場合は原則として日本とその資産がある外国両方で手続きが必要になることが多いです。そのため現地および日本の両方の相続事情に詳しい専門家が必要となります。
プロペイド手続き
日本では被相続人が亡くなると被相続人の積極財産(プラスの財産)と消極財産(マイナスの財産)は何か特別な手続きを経ず相続人に帰属します。このような考え方を包括承継主義と言います。しかしながらプロペイドという手続きを採用している国もございます。その代表的な国がアメリカです。(アメリカは州制なので各州によって異なります。)プロペイドとはしばしば検認手続きと訳されたりしますが、日本で一般的な遺言書を開封する際の検認手続きとは全く異なります。
プロペイドで相続手続きが開始される場合、相続が始まると被相続人の財産は全て独立した人格を持った遺産財団となります。管轄の裁判所がその人格の代表者を選任します。この人格代表者は、遺言がある場合、遺言執行者として就任し、遺言がない場合には、遺産管理人として被相続人の積極財産と消極財産を調査し、相続人の特定を行い、債務の弁済や税金の申告・納付を行い、残余財産を相続人へ帰属させます。このような考え方を管理清算主義と言います。
このような管理清算主義の国はアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランド、マレーシアなどです。一方日本と同じ包括承継主義の国はドイツ、イタリア、フランス、スイスなどがあります。
プロペイドは相続の内容にもよって異なりますが、一般的に数年かかります。またこの手続きを行わない場合、遺産を自分の財産とすることができないので注意が必要です。プロペイドは非常に手続きとして面倒なので、生前の準備(遺言書の作成や生前信託の設定など)により回避できることもあります。