遺産管理費用とは、相続発生後から遺産分割が完了し各相続人に財産が分割されるまでに遺産を管理するために発生する費用のことを指します。遺産とは、亡くなった方が残した財産や資産のことを指し、その遺産を適切に管理するためには費用がかかる場合があります。
遺産管理費用の範囲と具体例
ではどのような財産が遺産管理費用となるのでしょうか?
遺産管理費用には、不動産を持っている場合の固定資産税、家の修繕費・改築費、火災保険料、ガス料金、水道料金、電気料金、借りている土地や部屋の家賃、貸金庫の使用料などが該当します。
一方でこのようなケースはどうでしょうか?相続人が二人で、それぞれ不動産と現金が1000万円ずつありそれを法定相続をするとします。この際遺産分割がまとまらず不動産(家)が台風の被害にあり一部破損してしまいました。
相続人Aが100万円を支払い立て替えましたが、Bはどうなるのでしょうか?まずこれは遺産分割費用にあたり、AがBに遺産分割協議中に精算を求めることはできます。しかしその一方で相続人Bが拒んだ場合、最終的には裁判となります。
今回の修繕とは別にバリアフリー化をしたりなど快適にするためにリフォームした場合はどうなるでしょうか?これは遺産分割費用とは認められず請求ができません。なおこれはそもそも共有物の管理行為にあたり相続人の過半数の同意なしに勝手に行っては行けません。
遺産管理費用の支払い方法や精算方法は?
遺産管理費用は、相続人が負担することが一般的です。相続人は、費用を負担する義務があります。ただし、相続人の中での遺産分割協議によって負担割合や支払い方法を決めることも可能です。
管理費用の精算方法ですが遺産分割に入れ行う方法と、遺産分割に入れずに別途精算する方法があります。遺産分割に入れ相殺する方がトラブルも少なく簡便でしょう。
遺産管理費用の遺産分割
上記のような対応が遺産管理費用における遺産分割の取り扱いとなりますが、学術的には3つの説に分かれております。
❶積極説 : 遺産の管理費用は、相続財産に関する費用にあたるため、遺産から清算されるべきであるとする説(大阪高決昭和41・7・1 家月19巻2 号71頁、東京高決昭和54・6・6 家月32巻3 号101頁など)
❷消極説 : 遺産の管理費用は、相続開始後に発生する債務のため、相続財産とはいえず、遺産分割の対象ではないとする説(札幌高決昭和39・11・21家月17巻2 号38頁、福岡高決昭和40・11・8 家月18巻4 号74頁、東京高決昭和42・1・11家月19巻6 号55頁、大阪高決昭和58・6・20判タ506号186頁など)
❸折衷説:消極説と同じく遺産の管理費用は相続財産ではないので、原則として遺産分割の対象ではないとするものの、遺産分割の当事者同士が合意した場合には、遺産分割の対象となるとする説(広島高松江支決平成3・8・28家月44巻7号58頁など)
法解釈によるためどれも現時点でこれが正しいというわけではありません。過去の判決でも統一した判決は出されておりません。ケースバイケースな部分が多く実務上の負担が少ないものを選択していくのが現在のところと思われます。