遺言の撤回
近年ではトラブルを避けるため遺言を書き残す人が増えています。
20年前に遺言を書いたとすると遺言を書き残したものはいいものの、その書いた当初と事情が大幅に変わってしまっている可能性があります。
実際に来所いただいた方でも、当初は娘と息子に半分ずつ渡すという予定でしたが、娘の浪費グセがひどいため息子にのみに渡したいという方がいらっしゃいました。
そのような場合、遺言を取り消すことはできるのでしょうか?変更する場合料金がかかるのでしょうか?今回は遺言の取り消しや全部・一部変更について解説します。
遺言の種類は大きく分けて3種類
遺言書には大きく分けて「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。自筆証書遺言は全文自筆で書く必要があり、ルールに則っていないと無効となります。
公正証書遺言はお金がかかるものの公証人の立会いのもとで作成されるため不備なく完成し確実性が高いです。秘密証書遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言の間くらいのイメージです。
公正証書遺言が不備なく作成できるため、最もおすすめの方法ですが、遺言書としての優劣があるわけではありません。正しく作られた遺言書で最も新しいものが遺言書として有効となります。
遺言の取り消し(撤回)について
遺言の全てあるいは一部を取り消すことはできるのでしょうか?結論から言うと可能です。
いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法1022条)
民法では新しい遺言書を作りその中で以前の撤回する内容を記載すれば以前の遺言書を撤回することができるとされています。自筆証書遺言の場合、紛失してしまった場合無効となるため、新しく自筆証書遺言を作り過去に作成したものを破棄すれば書き換えができたことになります。
公正証書遺言の場合は公証役場に原本が保管されるため、元の遺言の処分や書き換えは不可です。そのため書き換える(撤回する)場合は新たに遺言書を作成することになります。
遺言書は公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類ありますが、この3つにおいての優劣は一切ありません。民法の規定通り一番最後に作成した有効な遺言が優先されます。そのため公正証書遺言の撤回を自筆証書遺言や秘密証書遺言で行うことも可能です。変更の場合も同様です。
しかしながら公正証書遺言を自筆証書遺言で変更する場合は、自筆証書遺言が遺言の形式に不備がなく正しい書式で書いてある必要があります。そうで無いと古い公正証書遺言が有効になってしまうため注意が必要です。そのため遺言は公正証書遺言で書くことをオススメします。
遺言書の撤回方法
遺言の撤回方法は公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言のどれで撤回しても構いません。遺言の撤回するときは「遺言者は、令和○年○月○日付で作成した〇〇証書遺言を全部撤回する」という文言を加えれば良いです。
遺言書の一部を撤回する場合は撤回する条項を明示した上で撤回後の内容を明記します。
矛盾した遺言書を作成する
遺言書の基本的なルールとして一番最後に作られた有効な遺言書が正式な遺言書として採用されます。
例えば「全ての財産を妻に相続させる」という遺言書を作成した後に「全ての財産を長男に相続させる」という遺言書を作成したら、前の遺言書は撤回したものと見なされ後者の方が正式な遺言書として採用されます。
遺言書を故意に破棄する
遺言者が遺言書を燃やすなど故意に破棄した場合は、遺言書は無効です。ただし公正証書遺言は原本は公証役場に保管されているため手元にある正本や謄本を燃やしたり処分しても撤回にはならず意味がありません。
遺言書が遺言と矛盾する法律行為を行なう
遺言書と矛盾する法律行為、例えば遺言書に不動産は長男に相続させると書いてあるにも関わらず、他の第三者に売却(売買契約)をしてしまうことがあります。この場合は遺言が撤回されたと考えます。
遺言内容の変更
作成した遺言のほんの一部を変更したい可能性もあるかもしれません。こちらの場合は遺言書の種類によって異なります。
自筆証書遺言でかつ修正が非常に軽微な場合は民法968条の第二項により変更が可能です。変更方法は変更したい部分を示し変更した旨を署名し、その変更のあった場所に印鑑を押さなくてはなりません。
書類の形式に不備があった場合、変更は無効となり元の遺言書が優先されます。
一方公正証書遺言の場合は公証役場に厳重に保管されているため、手元にある正本や謄本を書き直しても無駄です。新たな遺言を作成して変更しなければなりません。秘密証書遺言も中身を把握してしまった時点で無効となりますので新たに遺言書の作成が必要となります。
遺言書で日付を書く必要があるのは、どの遺言書が”最新版”であるのかということを明確にするためなのです。
遺言の書き換え以外による変更・取り消し
遺言書を新たに作成する以外に遺言の内容と遺言後の行為が矛盾する場合も取り消しをしたことになります。
例えば自宅(不動産)を息子と娘に半分ずつの割合で名義を渡すとしたとしても、その不動産を遺言者が生前に息子のみに贈与したとします。このような場合、遺言書と行動が矛盾するため遺言書は無効となります。
また自筆証書遺言の場合、遺言者が破棄・処分すれば取り消しになります。なお遺言書が故意ではなく偶然破れてしまった場合で遺言があったことを証明できる場合は遺言の破棄にはあたらず遺言は実行されます。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。